彼女と僕の伝奇的学問 / 水沢あきと

彼女と僕の伝奇的学問 (メディアワークス文庫)

「他の人のために、自分一人が犠牲になるなんていう考えは間違っている!」

メディアワークス文庫から『彼女と僕の伝奇的学問』です。

前作の不思議系上司の攻略法とは打って変わって、今回は伝奇物。

村に代々続いた神事。
その神事には秘密があり、伝統を守るために影で犠牲になる人がいた。
その事実を他所のものである主人公たちが偶然知り、解決するという、このジャンルの王道展開でしたが、こういう古くから村に伝わる風習の話はどうも好きになれない…。

というのも、作中にも語られているとおり、第三者が勝手に村の伝統に介入していいのか?という問題です。
もちろんこんな時代に誰が犠牲になるような伝統が続いてるのもおかしいし、止めるのが正しいと思うけど、本当にそれでいいのか?という葛藤から逃れられない。
今回はたまたま、あんな事情があったから解決できたけど、もしそんな都合のいい事実がなかったら、あんな円満解決などしなかっただろう…。
あまりにも都合良すぎたせいか、こうモヤッとしたものが残って不完全燃焼でした。

それはそれとして、今作は前作と比べてヒロイン候補が多く、恋愛方面では楽しめそうな物語だと思いました。
七海と桜花どっちが、主人公の彼女になるか楽しみ。

僕は友達が少ない CONNECT / 平坂読

僕は友達が少ない CONNECT (MF文庫J)

「……それでも、俺は本当の友達に巡り会いたいと思うけどな」

MF文庫Jの12月の新刊から『僕は友達が少ない CONNECT』です。

羽瀬川小鷹ではなく、他のキャラクター達の視点で語られる物語は、これまで話の舞台裏。
夜空視点で見る小鷹転入時の話から始まり、小鷹の父と母が出会った話など盛りだくさん。
これまでの話とこれからの話を繋ぐ、まさにコネクトという名に相応しい短篇集でした。

中でも特に印象的だったのは理科が語り部のエピソード『クオリア/もう一つの動き出した時間』。

小鷹と出会う前の理科の諦観っぷりは行き過ぎな気がした。
そんな彼女が小鷹と出会い、変わっていく姿がはっきりとわかる構成となっているのがとても良かった。

「友達ができました」と答えることができる彼女の変化は、心に来るものがある。
人が成長していく話が好きな私にとって、このエピソードは本当ストライクすぎた。

この後に続く『手を取れるように』も破壊力が高い。
改めて、8巻での彼女の大立ち回りを読み返したくなる。
あとがきでも、もはや主人公の風格とか書かれて思わず笑った。

そんな彼女と彼の青春シーンを覗き見てしまった夜空さん。
彼女の行動はわからなくもないけど、あんなメールを送ってしまうということは探して欲しいって言ってるようなもんだと思うんだけど…。
あとがきを読む限り、次巻では復活するらしいけど、やっぱり不安。

次の巻も楽しみです。

人生 第4章 / 川岸殴魚

人生 (第4章) (ガガガ文庫)

「自分ができることは目いっぱいやって、楽しむ。できる、できないは大事じゃないよ。きっと一緒なんだよ。人生も宿題も」

ガガガ文庫12月の新刊『人生』の4巻です。

いつもどおり、人生相談。
回答者達の自由奔放な発想は相変わらず。
ところどころで声に出して笑ってしまいそうな展開の中で、ときたま真理を突いたかのような発言が飛び出るから侮れない。

そんななか、まさかの4人目の回答者が加入。
芸術系代表ということで加わった新たなメンバーだけど、いくみとキャラが被ってるような気がしないでもない。
彼女が描いたふみのイラストには笑った。次回でもイラストをつかってはっちゃけて欲しい。

そういえば今回、梨乃が赤松を好きなのがはっきりわかって良かった。
赤松と梨乃をくっつけようとする展開が増えた気がするけど、まだまだ足りない。
恋愛話になると、弱気になる梨乃がかわいい。
なんだかんだで、相談を通じて彼女も変わってきてるのもいい。

次回も楽しみ。

のうりん 5 / 白鳥士郎

のうりん 5 (GA文庫)

「私たちはただ『肉』を作っているのではなく、『牛』を育てているのだから」

農業高校を舞台にした学園ラブコメのうりん』、第5巻です。

今回のテーマは畜産。

ガンダムのパロネタを交えつつ、農業技術を解説させるやり方はやっぱり上手い。
いつもどおり笑いを交えつつも、話が進むうちにだんだんと重い内容に。

普段何気なく食べてるお肉。
おそらくほとんどの人が気にしていないと思うけど、命を頂いてるんだなと本書を読んで気付かされました。

牛を育てるために必要な穀物が、どれだけいるかなんて初めて知った。
そしてそのために、世界でどんなことが起きているのかも…。
だからと言って私たちは肉を食べることを止めることができないだろう。
最後のシーンの胡蝶のセリフはとても重く心に響いた。

「医者は救うために命と向き合いますが、私たち農業従事者は奪うために命と向き合います。奪うために増やし、育てるのです。そのことを辛く思わない日はありません。」

「いただきます」という言葉の意味を私たちはもっとよく考えるべきなのかもしれません。


改めてこのラノベの凄さを実感しました。
パロディの満載ではっちゃけてるところも多いけど、それを補って余りあるくらい農業について真剣に語ってる。
なれるSEもそうだけど、普通の学校では学ぶことができない職業の話は本当面白いですね。
もっとこういう系統のラノベ増えればいいのに。

次回のテーマは『国際化』ということで帰って来た留学生ナタリーがいろいろ騒動を巻き起こす感じなのかな。
継とおっぱいさんの仲に嫉妬する耕作だけど、君の方がモテモテだと思うんだ。
農と林檎を交えた恋愛バトルがまた激化しそう。

のうりん 4 / 白鳥士郎

のうりん 4 (GA文庫)

「……どうしてこうなった?」

農業高校を舞台にした学園ラブコメのうりん』、第4巻です。

前回のオチからすごいことになると思ったけど、本当どうしてこうなったんでしょうね。

後に引けないところまで来てて本当笑った。
最後の修羅場で語られた耕作の話は良かった。

彼の家の事情が想像より重くてびっくり。
田舎へ出て農業で食べていくってのは本当に難しいんですね。
田舎を嫌いだと言うけども、それでも育ててくれたのはこの村と言い切れるのは正直すごい。
自分の母を奪ったことに農業に対して、もっと憎しみを抱いてもいい気がする。

そして最後にどういうオチを付けるのかと持ったらまさかのマクロスFネタ。
イツワリノウタヒメならぬ、イツワリノケッコンシキ。
笑った。

ヒロイン達の戦いはまだまだ続きますねー。
今回の件で、林檎ちゃんが優勢になった気がしないでもない。
焦った幼馴染の怖さがわかったエピソードでした。

魔法科高校の劣等生 8 追憶編 / 佐島勤

魔法科高校の劣等生 (8) 追憶編 (電撃文庫)

「わたしはお兄様の妹でありながら、お兄様のことを何一つ解っていませんでした。いえ……理解しようとしませんでした」

電撃文庫12月の新刊、『魔法科高校の劣等生』の8巻。

深雪がどうしてブラコンになったかわかる過去編です。
超絶ブラコンの深雪が3年前までは兄のことが苦手だったとか、同級生たちは信じないだろう。
でも、ただの護衛役としか思っていなかった兄の本当の力や、見えなかった一面を改めて目の当たりにし、

「大丈夫だよ、深雪」
「俺がついてる」

こんなセリフを吐かれ、さらに自身の命まで救われたとしたら、ブラコンになってしまうのもわからなくもない。

達也がなぜ妹を最優先にして動くという動機も明らかになり、これで達也の秘密はほぼ全て明らかになった感じかな。

Web版では無かった書き下ろしエピソード『アンタッチャブル』では四葉の異常性が明らかに。
一人の娘のために一族総動員で復讐に動くとか…。
十師族の中でもその異常性は随一ですね。

あんな本家相手に、達也と深雪はいつか喧嘩売るのかな。
真夜の思惑通り、あっさり当主の座を受け継ぎそうな気もするけど、先が読めないですね。

次回のアンジー編は3月。
このエピソードでWeb版のストックがついに尽きるのかな。
だけどこのエピソードも結構長かった気がする。
2年生編まで、まだまだ先は長いですね。

エスケヱプ・スピヰド 参 / 九岡望

エスケヱプ・スピヰド 参 (電撃文庫)

『参るがいい、模造品。蜂を失ったとて、鬼虫の九番式が貴様を恐れると思うか』

電撃文庫12月の新刊『エスケヱプ・スピヰド』の3巻。

鬼虫の思考を司る必要不可欠なパーツである『星鉄』を巡る話。
早くも謎の組織、黒塚部隊の隊長と隊員が姿を現す。

量産型の甲虫式の特機を操る彼等は、鬼虫に匹敵する力を見せてつけてくれました。
蜂本体を失っている九曜はともかく、蟷螂と蜘蛛…。
ふたりとも最後の最後で爪が甘すぎる。
試合に勝って勝負に負けたとはまさにこのこと。

せっかく引き上げられた、蜻蛉と蜂が盗まれたのは痛すぎる。
特に蜻蛉はヤバイ。
向こうの組織の元で再生されたらまた竜胆と戦うことになるのかな。

蜘蛛の巴さんが言うように情報筒抜けすぎ。内通者はいそう。
行方不明の技官の父を持つ百舌鳥さんが怪しいと思うけど、こういうのって案外予想外の人が内通者だったりするんですよね。

次回は蜈蚣の再生実験。
九曜の蜂も早々に取り戻して修復して欲しい。
本体がある相手に人型だけで戦うのは無茶すぎるよやっぱり。