ヒア・カムズ・ザ・サン / 有川浩

ヒア・カムズ・ザ・サン

「死者の思いは遺された者が決める、と僕の敬愛する作家が言っていました。死者を荒ぶる者にするのも安らげるものにするのも生者の解釈次第だと」

『真也は30歳。出版社で編集の仕事をしている。
彼は幼い頃から、品物や場所に残された、人間の記憶が見えた。
強い記憶は鮮やかに。何年経っても、鮮やかに。
ある日、真也は会社の同僚のカオルとともに成田空港へ行く。
カオルの父が、アメリカから20年ぶりに記憶したのだ。
父は、ハリウッドで映画の仕事をしていると言う。
しかし、真也の目には、全く違う景色が見えた……。』


7行のあらすじから生み出された2つ物語。
有川浩先生の新作『ヒア・カムズ・ザ・サン』です。


いつもと比べると恋愛成分は少なめの感動系の物語でした。
冒頭から数ページで一気に惹きこませる描写は流石。


2つ目の話は時系列的につながっているのかと勘違いをして少し戸惑いました。
同じ舞台のはずなのに、こんなにも違った話になるのは素直に感心。
個人的には最初の話の方が好きです。


全体的に恋愛成分少なめだったのがちょっと残念。
そろそろ植物図鑑のような恋愛物がまた読んでみたいです。

万能鑑定士Qの事件簿XII / 松岡 圭祐

万能鑑定士Qの事件簿XII (角川文庫)

「企業に属するすべての人が悪いわけじゃないでしょう。むしろ大多数の人たちは誠意を持って職務に従事しているはずです。集団社会では誰かが恵まれない立場に置かれます。補習クラスで赤点をとったぐらいで見捨てられたら……。わたしはいまここにはいなかったでしょう」

人の死なないミステリー『万能鑑定士Qの事件簿』の第12巻です。
わずか2年で12冊という脅威のペースで刊行された本シリーズはこの巻をもって第一期終了に。
第一期ラストを飾るに相応しいお話でした。


前回の展開と表紙でひょっとして?と思われた方が少なくなかったと思いますが、そこは小笠原と莉子。
それでも今回の小笠原は要所要所で上手く莉子のサポートができていて、パートナーとしての成長を実感できました。
莉子の不安を上手く取り除いく姿はかっこいい。
本当にいいコンビです。


次回から『万能鑑定士の推理劇』という名前でシリーズが展開されていくようです。
発売も12月とか、今までと変わらないペースで嬉しいです。
シリーズ名が変わっても今まで以上に二人で協力して事件を解決していって欲しいですね。


事件簿シリーズお疲れ様でした。

確率捜査官 御子柴岳人 密室のゲーム / 神永学

確率捜査官 御子柴岳人 密室のゲーム

「確率や統計において、100パーセントは存在しない」
「絶対ではない……」
「そういうことだ」

昨今問題になっている、警察の取り調べの問題。
取り調べの可視化や正確性を求める声が高まってきた問題に対応するために新設された<捜査一課特殊取調対策班>。
そこへ異動してきた新妻友紀が出会った人物はエキセントリックな数学者、御子柴岳人だった。
ゲーム理論を用いれば、容疑者が黙秘を続けたとしても、真相を導き出すことができる」という、御子柴。
「人の心は計算できない」と、反論する友紀。
出会ってそうそう喧嘩し始める二人だが、早速事件の取り調べを行うことになる。
数学を使った新しい取り調べが今始まる。


心霊探偵八雲で有名な神永学先生の新作『確率捜査官 御子柴岳人』です。
本作は昨今騒がれている警察の取り調べに関する問題を題材にした作品です。
タイトルに密室のゲームとありますが、これは取り調べを行う環境が密室という意味のようで、密室の謎を解くというミステリではありませんでした。


自白の強要などしてはならないと思う友紀(女刑事)と、ゲーム理論で真相を導き出せると考える御子柴(数学者)のコンビが、彼の言葉通りに数学で真相を導きだしていく展開は詰将棋を見ているようで面白かったです。最後の展開はまさにゲームそのもの。見事に犯人を追い詰めていきます。


御子柴は前作の八雲と同様、無愛想かつ、エキセントリックな行動を取る変人。
それに対応する友紀は可哀想ですけど、彼らのやりとりを見てみるとお似合いカップルにしか見えない。
友紀に弱点だと思われていた諺を早々に克服する御子柴は可愛かったな。
でも出会ったばかりのためか二人の距離はまだまだ離れてる感じなので、今後に期待したい。


本作には前作からのファンは思わずニヤリとしてしまうあの人物が少しだけですが登場します。
物語には深く関わってこないのですが、これは嬉しい演出でした。


終盤に今回の事件の犯人とは別に、友紀の父親を殺した犯人が別にいると判明するのですが、その真犯人が簡単に予想できてしまったのが若干残念。
この先は逆転裁判のように往生際の悪い犯人が登場して、ギリギリまで自白しない展開になるんでしょうかね。


また一つ楽しみな作品が始まりました。

万能鑑定士Qの事件簿 XI / 松岡圭祐

万能鑑定士Qの事件簿 XI (角川文庫)

「人と異なる思考法を身につけたからといって、世間を欺くのに用いるべきではありません。まして私腹を肥やすのは言語道断です。たとえ宗教の衣を被っても、許されることじゃないはずです」

発表されるまで誰もが知らなかったはずの内容が書かれている音隠寺の祈願文。
奉納されている祈願箱には開示されるまで誰も触っていないはずなのに、なぜここまで的中率が?
祈願文開示日に音隠寺へ偶然訪れることになった莉子と小笠原が祈願文の謎に挑む。


万能鑑定士Qの事件簿11巻です。
安定した面白さでした。


今回の相手は"チープグッズ"の店長、瀬戸内に師事した兄弟子、水無施瞬。
同じ人を師事しただけあって、なかなか手強い相手でした。

同門対決も面白かったのですが、今回はどちらかというと小笠原の活躍を楽しむ回でした。
川に飛び込むシーンはカッコ良かった。
莉子が思わず、抱きしめてしまうのもわかります。
あれは惚れる。
ゆっくりとですが確実に莉子との距離を縮めてるのがいいです。
最後の祈願文は成就して欲しい。


それにしても、瀬戸内さんは指導者として優秀すぎる。
やっぱり彼は道を誤ったと思う。


さて次回は莉子のライバル、華蓮が再登場。
次回も面白そうで今から楽しみ。

万能鑑定士Qの事件簿X / 松岡圭祐

万能鑑定士Qの事件簿X / 松岡圭祐 / 角川文庫
万能鑑定士Qの事件簿X (角川文庫)

「わたしがいまあるのは、瀬戸内店長のおかげです」

面白くて知恵がつく人が死なないミステリー
万能鑑定士シリーズ10巻目。


今回は莉子が初めて事件を解決した話で、時系列的には万能鑑定士として独立した直後。
右も左もわからず、イキナリ詐欺師にダマされる莉子は新鮮。


莉子を育てたディスカウントショップの店長、瀬戸内陸が再登場。
莉子の抜群の推理力が育まれた謎が今作で判明します。
他にも語られなかった2巻の直後のシーンも。


ところどころ、現政権批判が入ってたのは面白かった。
相変わらず時事ネタを上手く挟みますね。


瀬戸内店長は職業を絶対間違えた。
先生とか、講師やってた方が幸せだったんじゃないかな…。
でも店長をやっていなかったら今の莉子も存在しないと思うと複雑です。


莉子を育てることは自分の首を締めることだとわかっていながら手を貸した瀬戸内店長。
逮捕されてもそのことを悔やまず、さらにアドバイスまで送るとか器大きすぎ。

彼女の中でどれだけ店長の存在が大きかったか分かる話でした。

万能鑑定士Qの事件簿IX / 松岡圭祐

万能鑑定士Qの事件簿IX / 松岡圭祐 / 角川文庫
万能鑑定士Qの事件簿IX (角川文庫)

「わたし個人的な問題なんだから、構わないで」
「きみひとりじゃなくて、ほかにも大勢の人が困り果てる事態なるといったら? 助けなくてもいいの? さあ、旅の支度をして」
「やだってば!」
「わたしにはもう何も見えないの。何もできない。ただの田舎の馬鹿娘でしかないんだから、干渉しないで」
「がっかりさせんなよ!」

パリのルーヴル美術館に展示されている『モナ・リザ』が急遽日本に来ることになり、
ルーヴル美術館が臨時学芸員として、モナ・リザの真贋を瞬時に見極められるレベルの鑑定家を募集していた。
ルーヴルの元学芸員を助けた縁もあり、莉子は真贋鑑定の能力テストに参加することになった。


2010年の4月から刊行されて早1年。
万能鑑定士Qの事件簿、9巻目です。
相変わらず安定して面白さのシリーズですが、その中でも本作はシリーズで一番面白かったです。
何より最近いいところが無かった小笠原がついに活躍!


落ち込んで絶望の淵に落ちていた莉子を復活させたシーンは過去最高にカッコ良かった。
ようやくニブイ莉子も惚れたような気がする。


今作では第三者視点から、莉子と小笠原の二人は良いパートナーと描写されていて、外堀は大分埋まってきてるようにも見える。

二人の距離がようやく縮まり読書後はテンションが上がりました。
ますますこのシリーズが楽しみになってきました。


次巻もこの調子で二人の活躍を読みたいところですが、
どうやら次巻は、莉子が初めて事件を解決した過去の話のようなので小笠原の出番は無い様子。
少し残念ですが、初めての事件も気になりますね。
今から二ヶ月後が楽しみです。

県庁おもてなし課 / 有川浩

県庁おもてなし課 / 有川浩 / 角川書店
県庁おもてなし課

「なあ、掛水」
「小説の主人公、お前の名前にしてもいい?」

高知県の県庁に新設された「おもてなし課」。
観光立県を目指して奮闘する公務員達とそれをサポートする観光特使のお話。


本当有川浩の描く物語に外れは無いですね。
今作も素晴らしかった。


旅行に行かない私ですけど、聖地巡礼したくなる気持ちがわかりました。
高知県にはいつか必ず行く。


相変わらず、有川浩作品に出てくる人物はどいつもこいつもカッコ良すぎる。
最初はダメダメでも、絶対に成長する。
今回の主役の掛水は序盤から男として格好良かった。
水を掛けられてもとっさに庇えるとか、凄過ぎる。


あれで惚れない女性はいない、むしろくっつのが遅すぎる。
個人的にはもっとイチャイチャしてるところが読みたかったけどテーマがテーマなのでしょうがないです。


終盤の掛水と多恵ちゃんが二人で一泊旅行は良かった。
おやすみのシーンは最高。
そういえば最近の有川作品の恋には甘さが足りないと思います。
恥ずかしくて読めないくらいのラブコメ話を次は是非。