サクラの音がきこえる ―あるピアニストが遺した、パルティータ第二番ニ短調シャコンヌ / 浅葉なつ
「音楽はね、魂で唄って、血で奏でるものさ」
偉大なピアニストだった父を未だに恨んでいる智也はある日、奇妙な依頼を受けるはめになる。
「私を、音楽で感動させてください」
音楽学校の首席でありながらも、生まれてからこのかた音楽で感動をしたことがないという。
その影響は自身の演奏にも及んでいると指摘され悩む、奏恵。
絶対音感を持つがゆえに翻弄された彼らが辿り着いた場所とは…。
メディアワークス文庫の5月の新刊『サクラの音がきこえる ―あるピアニストが遺した、パルティータ第二番ニ短調シャコンヌ』です。
演奏に込められた想いは時が経っても必ず伝わる。
そう実感させてくれた物語でした。
民族音楽が奏でられるシーンは、読んでいるだけの私の心にまで響いてくるものがあった。
ラストの奏恵の演奏シーンも素晴らしく、思わず涙が零れそうになった。
演奏シーンの描写が素晴らしい物語ってやっぱりいい。
3月のドラフィルもそうでしたが、音楽を題材にした物語を改めて好きだと実感させてもらえた一冊。
随所に散りばめられた伏線が綺麗に回収されていく様もすごかった。
ちょっと出来過ぎな気がしないでもない。
それにしても出てくる登場人物はみんないい奴すぎ。
特に小学生の尚平くんとインドネシア料理屋の店長のハムサのふたりは群を抜いてる。
尚平くんはまだ小学生だからこそ、あんなに純真でいられるのかもしれない。
是非とも、そのまま真っすぐ育っていって欲しい。
ヒロインの奏恵のキャラは思ってたよりもラノベっぽかったけど、それがまた主人公の智也といい距離感を出してくれた。
合鍵まで作られちゃったし、この先も尻に敷かれる智也の姿が目に浮かぶ。
面白かった。
出すたびに前作を超える出来で嬉しい。
次回作も楽しみ。