楽聖少女 / 杉井光
きみだって同じだろう、きみだって芸術家だろう?
メフィストフェレスと契約によりゲーテに転生させられた主人公のユキは、
ゲーテの盟友であるシラーと共に訪れた温泉街カールスバートの街で、ひとりの少女と出会う。
まだ生まれていない曲、ベートーヴェンの「交響曲第九番終楽章の歓喜の歌」を歌う彼女の正体とは…。
芸術家が芸術家であるために、自分の信念を貫く話。
思っていたよりもファンタジー色が強かったけど、面白かった。
誰もが一度は名前を聞いたことがある歴史上の有名人が多く登場。
それゆえに歴史物としても読める話になっているが、彼等のキャラクターと設定には誰もが突っ込まざるを得ないと思う。
ハイドン先生のキャラはどうしてああなった。
メフィストフェレスとの契約を恐れ、感動から遠ざかるように行動するユキ。
その反対に音楽家として、自分欲求に従い突き進んでいくルゥ。
「聴衆をねじ伏せられなければ、僕の歌がだれの心にも響かなければ、それがぼくの敗北、ぼくの死だ。」
陛下から『ボナパルト』の公開を止めるように言われたときの彼女の言葉はまさに魂の叫びといっていいだろう。
その叫びはその後、作品として数百年経っても色褪せずに残り続けるのだから。
そんな彼女と行動を共にしていくうちに、隠していた自身の気持ちを向き合い始めていくユキ。
ゲーテとしてではなくユキとして物語を書くことを決意した彼ですが、ファウストをそのままなぞってしまうのか、それとも抗えるのか楽しみ。
最後のシラーからの手紙はとてもいい余韻を残してくれた。