ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄 / 美奈川護

ドラフィル!―竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄 (メディアワークス文庫)

「いいか……この世で最も残酷なのは、音楽だ。けどな、この世で最も愛に溢れたものもまた、音楽なんだよ」

音大をでたもののプロオケからの採用がなく音楽ニート真っ只中の藤間響介は、ある日叔父からコンサートマスターを探しいているオーケーストラがあると紹介される。そのオケは竜ヶ坂という小さな町の商店街の有志が集まったアマチュア・オーケストラ、通称『ドラフィル』。行くあてのない響介はドラフィルに行くことを決心するのであった。

メディアワークス文庫の3月の新刊『ドラフィル! 竜ヶ坂商店街オーケストラの英雄』です。

音楽の力をまざまざと魅せつけられた物語。
随所に散りばめられた伏線が回収される第四楽章からの展開は特に素晴らしく、何度も心を動かされた。出会いを通して人が成長していく物語はやっぱり素敵。読み終えて多くの人に読むのを薦めたくなる物語はいつ以来だろう。面白かった。

物語はアマオケの主要メンバーが抱える問題をひとつずつ順番に解決していく形で進んでいく。それぞれの問題が解決していくにつれ、各々が新しい一歩を踏み出していく展開は読んでいて気持ちがいい。

第四楽章からはじまる伏線の回収も綺麗でしたが、この物語の一番印象に残るシーンは、最後のリハーサル演奏。クラシックや音楽に造形がなくとも、奏者がどんな演奏をしているのか思い描くことができる表現力が見事だった。

こうも面白い物語を紡がれると、美奈川先生の次の作品に期待が高まってしまう。
次もまた心に響く物語をお願いします。