明日も彼女は恋をする / 入間人間

明日も彼女は恋をする (メディアワークス文庫)

「本当に鯨が好きで仕方ないなら、命は平等じゃない。牛肉食って鯨は食うな、という主張も的外れじゃない。大事にしたいものを、大事にする。それだけのことだ」

過去から戻ってきたわたしに待ち受けたのは彼の消失だった。
再び歩けるようになった代償としては大きすぎるその代償
わたしは彼を必ず取り返す。
何年かけても、何十年を費やしても。


メディアワークス文庫12月の新刊『明日も彼女は恋をする』です。


これはすごい。
読み終わってすぐに興奮が収まらなかった。
ここ最近は作者にしてやれたら物語が多くて本当嬉しい。


騙されたというか、これは仕掛けが凄すぎる。
上巻の『昨日は彼女も恋してた』だけ読んでわかった人はおそらくいないと思う。
それくらい仕掛けが巧妙で、全てがわかった後で、上巻を読み直すとその構成の凄さに誰もが驚くと思う。
読者までもループさせてしまうのはタイムトラベルものとしてはお約束だけど、これは唸るしかなかった。


来月もまた違ったタイムトラベルものが予定されているので、今から楽しみです。




それでは、ここから先の感想はネタバレを交えています。
未読の方は注意してください。
12/29追記
























これは『僕とマチ』、『わたしとニア』の物語。


僕の描写は正真正銘の一回目のタイムトラベルの話。
わたしの描写は、僕が二回目のタイムトラベルをしているあいだの話。


上巻から交互に話が進んでいたけど、実は時系列が巧妙にずれているとか普通気づかない。
それくらいあまりにも自然に上巻では物語が進んでいました。


私が気付けたのは、下巻で『僕』の父が教師をしているという描写と
小学校の先生の苗字が「玻璃」と、上巻で名前だけ出てきた同級生と同じだったのが決め手でした。


『僕とマチの物語』はこれで終わったかもしれないけど、
『わたしとニアの物語』はこれからようやく始まった感じなのかな。
それくらい恋の執念の凄さを彼女から感じさせられた。


エピローグのアレ、絶対に彼女完成させてますよ…。
もしかして松平さんの師匠って…あの人なんじゃないかな。
人類初のタイムトラベラーというあの言葉が本当ならば…。
卵が先か鶏が先かわかりません。




ニアこと近雄について。
あとがきによると、彼の名前のモチーフになったのはゲーム『ニーアレプリカント』の主人公ニーアから。
どうやらモチーフになったのは名前だけでなく、その生き様も含まれていたようです。


愛する人を助けるために自分が犠牲になる。
犠牲になる本人は納得しているかもしれないけど、残された人がどういう思いをするかまであと少しでも考えてたら、
彼女は救われたのかもしれない。


あの後、彼女が幸せな人生を送れたかどうかは知る由もないが、きっと壮絶な人生を送ったのではないだろうか…。



12/29追記


思い返せば、綾乃は一緒に過去にタイムスリップしたマチを救ってはいないんですよね。
ニアと同じく、彼女も未来に戻ってきたと同時にその精神は死んでしまった。


彼が助けたのはあくまで、別のマチであって、あの時「一緒にうどんを食べに行こう」約束した彼女ではない。
こう考えてしまうと、なんだかやるせないです。
ただ綾乃が未来に戻ったとしても、あのときの彼女ではないのだろう。
そう意味では、あの世界でマチともう一人の自分を見守るという、彼の選択もあながち間違いではないのかもしれない。