東雲侑子は短編小説をあいしている / 森橋ビンゴ
「私は誰とも比べられなかったから、自分が何をしたらいいのか、よく分からないままだもの」
一緒に図書委員を務める、東雲侑子。
偶然にも、彼女が作家であることを知ってしまった三並英太。
彼女にサインを頼んだことをキッカケに彼女からも一つお願いをされることになった。
それは長編小説を書くために取材の一貫として「自分と付き合って欲しい」というものであった。
9月のファミ通文庫からの新刊『東雲侑子は短編小説をあいしている』です。
正統派の恋愛小説でとても面白かったです。
お互いに付き合うって何をすればいいんだろう?
というところから関係がなんとも初々しくて甘酸っぱく、読んでいくうちに昔を懐かしく思い出しました。
遊園地でお揃いの携帯ストラップを買うシーンなど、あまりにも甘い青春っぷりにこっちが恥ずかしくなってしまった。
擬似の恋人関係を続けていくうち本当に好きになっていく二人の様子がとても良かった。
本小説では章間に短編小説が差し込まれているのですが、この仕掛けも見事。
途中でこの短編小説の真意に気づいたときは唸りました。
今で比べることの出来なかった侑子が有美と比べてしまった結果、終盤の例のシーンに繋がったんだと。
彼女は満足のいく長編小説をこの先書けるのだろうか?
たぶん、素晴らしい長編小説を書くことはできると思うけど、きっと彼女は満足してないと言い切るだろう。