空をサカナが泳ぐ頃 / 浅葉なつ

空をサカナが泳ぐ頃 / 浅葉なつ / メディアワークス文庫

空をサカナが泳ぐ頃 (メディアワークス文庫)

「だから、あんたは変なことばっかり言うって言ったんだよ」
「は?」
「賞賛されても批判されても、藍は藍じゃん」
「怖がる必要なんか、これっぽっちもないのに」

第17回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞〉受賞作「空をサカナが泳ぐ頃」です。

素晴らしい物語でした。
過去、恋愛、考え方、生き方などに縛られしまった人達が、サカナを見えるという体験を通して自分を見つめ直して成長していく話です。
人が成長していく物語はやっぱり面白いです。
登場人物たちと年齢が近いせいもあるのか私自身、自分の生き方について考えさせられました。


主人公は雑誌編集の仕事に日々を忙殺されている26歳の中津藍(♂)。
タバコ休憩中にタバコが切れたため、余っているタバコを探しに給湯室へ向かうと
パッケージの絵がサカナの絵柄の、普段見かけない怪しいタバコを入手する。
タバコを吸ってから数分後、自分にだけ空中にサカナが見えるようになったことに気づき慌てる。
このままではまともに生活できないと悟った主人公は、親友の山崎を巻き込んで元に戻る方法を探すことに奔走する。


タバコを吸ってしまったのは主人公の中津以外に4人。
親友の山崎、元ダイバーの東三国、謎の女性遙。
仲良く運命共同体になったのですが、主人公以外の3人はこの状況を楽しでるところがあって、そのギャップが面白かったです。
3人ともそれぞれ抱えてる問題があったのに、それを感じさせない明るさに主人公は大分救われたのではないでしょうか?


ここからネタバレを含みます。
遙、山崎、東三国と順番に抱えていた問題を解決していき、サカナが見えなくなった。
サカナは自分からの警告だと気づき藍は焦ります。
さらに追い打ちをかけるように、彼女の浮気現場を目撃してしまうんですから、ショックを受けるのも無理ないです。
でも、そこで彼女ではなく自分を責めることができたのは凄い。
誰よりもコンプレックスを抱えてることを認識しようやく自分と向き合えたのですから。
その後すぐに、今まで蔑ろにしていた彼女とちゃんと向きあって別れを告げたシーン、カッコ良かったです。


人が成長していく話は素敵ですね。