悲鳴伝 / 西尾維新

悲鳴伝 (講談社ノベルス)

「そらからくんは、本当にヒーローだね」

地球撲滅軍という秘密組織に、とある特殊な才能を見出された少年、『空々空(そらからくう)』の愛と友情の物語。

西尾維新先生の最新作『悲鳴伝』です。

道を外れてしまった人が、間違いながらも、必死に生きようとする物語で、西尾維新らしい英雄譚。面白かったです。

再長編とだけあって、ものすごいボリュームでしたが、それでも読み終えてみると、まだまだ空々くんの頑張りをみてみたいと思う、不思議な感覚で一杯でした。

本作は、地球が人間を滅ぼす悪と定義されていて、そんな悪の地球から人間を守るために秘密裏に組織された『地球撲滅軍』で起きた物語。どちらかというと、悪は『地球撲滅軍』だったり。あの組織を正義といえる人は果たしているのだろうか?『地球撲滅軍』の人からヒーローと持ち上げられた、空々くんの待ち受けた運命は悲惨という表現では足りない。

戯言シリーズ人間シリーズと同じ、いやそれ以上に人があっさりと死んでいく本作の中で、まったくブレない彼は果たして幸せだったのだろうか…。結局のところ怪人よりも、内部の人間と戦う方が多かった彼ですが、結果として彼の行動は、誰よりもヒーローそのものだったと思う。

今までにない主人公のタイプではありましたが、どうしようもなく、ズレている部分は、西尾維新の主人公らしかった。無感動がゆえに、周囲と合わせてしまう彼の行動原理には共感してしまう部分があったりする。特に冒頭の『大いなる悲鳴』に関する空々くんの悩みは、震災を経験した今の私達と重なる部分が多く、考えさせられる。

物語の盛り上がりは第6話終盤から。ここから先の展開は怒涛。一気に惹きこまれる。悪い予感しかしないけど、それでもページを捲るのが止まらない。
そして訪れたラストシーンは圧巻。涙をこぼさずにはいられなかった。決してハッピーエンドとはいえない内容なのに、なぜこんなにも穏やかな気持ちになれるのか不思議で仕方ない。

素敵な物語でした。