サイハテの救世主 PAPERI:破壊者 / 岩井恭平

サイハテの救世主  PAPERI:破壊者 (角川スニーカー文庫)

「せっかく沖縄に来たなら。ゆっくりしていけ。ここは好いヤツばかりさ」

角川スニーカー文庫4月の新刊『サイハテの救世主』です。
挫折した天才の苦悩がうまく描かれていて、とても面白かった。

いくら自分が蒔いた種とはいえ、世界の危機を主人公に押し付けてしまう大人達に、狂気を感じた。
天才といえでも16歳の少年に背負わせには大きすぎる期待だ。
過去に何度も様々なミッションを成功してきた姿を目の当たりにしたとはいえ、あそこまで、自分達の期待を押し付けてしまえる姿は、暴力といっていいんじゃないだろうか。

中盤にアメリカから追いかけてきた助手が主人公に迫る姿は、まさに全人類の期待すべて濃縮したかのようで、怖かった。
自分達にできないことを、できる人にやってもらうという理屈はわからないでもない。
だからといって、なんでもできる天才に、なんでもかんでも押し付けてもいいのだろうか。

何度も諦めようとした彼を奮い立たせたのは島の人たちとの思い出。
壊れた頭を必死に使って奮闘する主人公の姿は胸に響く。
たちえ天才性が失われようが彼はガラクタなんかじゃない。

失われた論文がまだまだあるらしく、この先もかつての自分と戦わざるを得ない主人公は気の毒。
でも、島民たちと一緒に過ごす日々がこれから先、彼の心を癒してくれるでしょう。
自身の姉に嫉妬して主人公を攻撃するヒロインの陸が微笑ましかった。

これから物語がどう展開していくか、とても楽しみ。
面白い新作が始まって嬉しい。